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コラム

効率の良いカルシウムの摂取は?

ほとんど多くの日本人は、子供の頃から「カルシウムを取るには牛乳を飲みなさい。」と指示されてきました。しかしながら、日本人が牛乳を飲むようになった歴史というものは、わずか数百年足らずのものなのです。そもそも、日本人の生活の形態としては、まず牛乳を飲むという習慣は存在していなかったといってよいと思います。
奈良時代に上流階級の一握りの人の食卓にあがったという話はありますが、庶民レベルではなかったといってよいのではないでしょうか。この一般的な日本人の食生活の歴史的な実績を十分考慮し評価しなければならないと思います。牛乳には、100グラム中に100ミリグラムと多くのカルシウムが含まれています。しかし、日本人の場合あるいは、欧米などの乳食文化のある人達にとって、牛乳から取り入れられるカルシウムが、体にどの程度取り入れられるか別に考えてみる必要があるのではないでしょうか。
それを考える切り口となるのが、味噌汁一杯には一日に摂取する1/4のカルシウムが含まれていることや、日本人が乳食文化圏人達とは、異なる食生活の歴史を有していたという事実だと思います。つまり、乳食文化圏以外の人達は、乳類に含まれるカルシウムの吸収効率が低いので、カルシウムを摂取するために乳類を取る必要がそれ程多くはなかった、或いは乳類に代わるものがありそれ程不都合ではなかったとも言えそうです。

カルシウムの吸収というものは、牛乳中に含まれるラクトース(乳糖)が分解されないと、カルシウムは体に吸収されないというデータがあるのです。場合によっては、ほかの食物に含まれるカルシウムを、排泄してしまうという(牛乳を飲むと下痢をしてしまう人)非常にマイナスな作用を持つというデータもあります。そして、このラクトースを分解する酵素がラクターゼなのです。ところが日本人などでは、白人と異なり離乳期以前は、腸におけるラクターゼ活性が非常に高かったものが、2~4歳位になるとほとんど活性がゼロに近くなってしまうというデータがあります。白人の場合は、大人になってもラクターゼ活性は高い状態に維持されるのですが、日本人やアジア人、アフリカ人などの場合は、ごく一部の人を除いて、急激に減少してしまいます。ところがこの現象は、哺乳動物に共通の現象で、言い方を変えれば白人の成人の場合が例外的現象といえます。(離乳期以後の子供や動物が、牛乳を急に飲まなくなるということもこの事を証明していると思われます。)日本人の日常の生活では、軽い便秘症状を解消するために牛乳を飲むことがありますが、これは日本人が牛乳に対して有している体質的なマイナス面の一つの現れだと思います。それでは日本人にはどのようなカルシウムの摂取の仕方がより良いのでしょうか。それは、野菜類とくに小松菜や大根の葉等の葉菜類に100グラムあたり牛乳の2倍近くのカルシウムが含まれていますから、それから摂取すればよいと思われます。また、豆類特に大豆類、海藻類といったものからも摂取すべきです。特に、ひじきにいたっては、牛乳の実に16倍ものカルシウムが含まれているのです。最近の牛乳では、ラクトースを分解した状態で体にカルシウムを吸収しやすくした牛乳や発酵乳等も存在していますのであまり神経質になる必要性はありませんが、こういった昔から我々の身の回りにある食物の味噌汁(一日の摂取量の約25%のカルシウムや鉄などを含む)の具にしたり、おひたしにして取っていけば日本人にとって無理のない形で必要なカルシウムを摂取することもできると思います。

また、骨・歯=カルシウムというイメージがありますが、決してそうではなく、丈夫な骨や歯をつくるには、バランスのとれた食事、栄養が必要不可欠になってきます。例えば、丈夫な鉄筋コンクリートも決してセメントだけで成り立っているのではありません。セメント、砂利、水、鉄筋等をバランスよく掛け合わせることにより丈夫な鉄筋コンクリートになるのです。セメントが多すぎても、水が多すぎてもいけません。もしセメントをカルシウムに例えるならば、砂利が良質なリン(米、肉、卵類)、鉄筋がコラーゲン(良質たんぱく質)、水が、ビタミンA、C、Dなどということになってくるのではないでしょうか。そしてさらに太陽の光、運動等をもってはじめて丈夫な骨や歯がつくられるのです。バランスのとれた食生活を送るということは、これら各栄養素の能力を最大限に発揮させることにもつながってきます。結果として、丈夫な骨・歯はもとより健全な体の発育、維持ということにつながってくるものなのです。 文・写真 酒井 公洋

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