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コラム

歯科健診の時期を終えて(感想と課題)

毎年、5~6月を中心として幼稚園から高等学校までたくさんの方々のお口の中を健診させていただいておりますが、特に就学前の幼稚園等の健診のお話をさせていただきます。就学前の児童の健診は、小学校以上の学校歯科健診と異なり明確な診断基準がないために、いわゆる「甘い診断」、「厳しい診断」等、健診をなさる先生方の主観によって健診の結果の傾向が異なってきます。就学前の健診では、学校歯科保健(小学校以上の歯科健康診断における基準を設定したもの)により「虫歯」の統一された明確な規格が存在しないため、各先生方の診査によって差がでてきてしまいます。小学校以上の健診では、平成7年の学校歯科健康診断基準の改正より、それまでの疾病対策(早期発見の早期治療)から予防指向への転換(初期虫歯に関しては適切な指導により十分に経過を観察する)がなされています。学校歯科健康診断とは、自ら健康を維持する能力を獲得できるように支援することが目的となっています(ライフスキル(自ら目標をつくり頑張っていく)の獲得)。
小学校以前の幼稚園等の健診では、学校歯科保健の定義が当てはまらないために、健診する先生方の主観によるものが必然的に多くなりますが、学校歯科保健に乗っ取って行うと先生方の主観による誤差は減少しますが、ほとんどの児童には虫歯が存在しない状況となります(私も含め、学校歯科保健に乗っ取った健診を行っている先生方も多くいらっしゃいます。)。しかしながら就学前の健診では、虫歯の本数を指摘する場合が多く、この「虫歯」の定義というものが非常に難しくなってきています。〔ごく初期の虫歯を「虫歯」とするのか? 着色している歯を「虫歯」とするのか? 穴の開いた歯を「虫歯」とするのか?(学校歯科保健ではこの状態以上のものを虫歯と定義しています。) 大きく崩壊した歯を虫歯とするのか?・・・等〕
学校歯科保健による「虫歯」とは、歯科健診は、医院内において、診査・診断を下す環境とは著しく異なり、明るさ、唾液、姿勢等、医院外での健診は、概ね言ってみるならば、うす暗い曇りガラス越しに新聞を読むような状況であります。このような環境の悪さや、先生方の主観による誤差を減らす上で学校歯科保健によって健診時における「虫歯」の定義を第三者の先生が見ても明らかに歯に触れない状態でう窩(歯に開いた穴・欠損(かけている)・・・色では判断しません)を認めるもの。ということになってきています。このことは、予防歯科による再石灰化(コラム:歯科健診参照。唾液中のカルシウムやリンによって、酸によって溶け出した虫歯の表面がもう一度石灰化(結晶化)して硬くなること。)を期待し、初期虫歯を削ってしまうことの弊害〔(Restorated Rotation Cycle(治療の循環):歯は虫歯等で1度削ると・・・→2次カリエス(削ったところから虫歯になる)→抜髄(神経を取るにいたる)→再治療(神経を取ったあとは予後の状態によって膿などがたまり再治療になることが多い)→ 抜歯(結果的に抜歯に至ってしまうというケースが多い)〕を減らすという考え方の影響が理論のひとつとしてあるからだと思われます(MI:ミニマル・インターベンション・・・国際歯科連盟によって2000年に提唱された予防的概念のひとつ)。前述したように、この考え方で就学前の児童の健診にあたると虫歯はほとんどないという結果になってきます。逆の言い方をすれば、この健診での虫歯の発見はかなり進行状態にある虫歯であるとも言えます。(統一した基準がないため先生方の主観によって、診断結果に差がでてしまうのもこのためです。先生によっては以下に述べさせていただくCOの状態を勧告の意味でも虫歯と判断される方もいらっしゃいます。このあたりは判断の難しいところであります。)しかし、就学前の口腔環境の整理は、将来につながる大切な時期であり、本人のみならず保護者の方にもしっかりとお口の中の状態を把握していただくうえでも虫歯の本数にかかわらず1度かかりつけの歯科医院にてしっかり健診されることをお勧めします。今後、学校歯科保健のように、就学前の児童の検診にも「C0」(Cは虫歯。C0は虫歯の疑いがある歯)というものの導入も必要になってくるかと思われます。(検診結果の感想としては、就学前児童ではこのCOを虫歯と判断すると、3~5倍の児童が虫歯保有ということになりそうです。)また、歯と同時に歯肉の状態(最近では軟食、咀嚼回数の不足等さまざまな原因により小学校低学年から歯肉に炎症が認められ、中学生に至っては半数以上の生徒に炎症が認められます。歯を支える大切な歯肉や骨の状態の確認もある意味必要になってくるのではないでしょうか。
学校での健診はスクリーニング検査(健康歯・虫歯の疑い・虫歯のふるいわけ)としての意味合いが強く、総合的に判断した結果となってしまうことは仕方がないことであるため、このことからも各個人のお口の状態にあった対応をかかりつけの先生方とともに見つけ出すことが大切になってきます。
時代の流れ、虫歯の減少により、以前のような著しい虫歯による口腔内の環境悪化や、全身に与える影響が懸念される場合に治療を勧告書によって勧告するという意味合いではなくなってきているのも事実です。今後すでに周知のように予防中心の歯科医療が中心の時代になってくると思われますが、再石灰化もふくめ、歯を削るか?削らないか?大きな問題になってくるかもしれません。再石灰化が期待できる初期の虫歯に関しては、削らずに経過をみるようにしましょう・・・。となることもあると思いますが、これには大前提として、各自の予防歯科に対する理解・自覚と、先生方の十分な指導・管理があってのものです。歯や口の中の状態環境(歯の硬さ・大きさ・並び方・位置・唾液成分・量・嗜好・咬み癖・習癖等)は、それぞれ個人個人まったく別物であり「初期の虫歯だから観察しましょう・・・。」とは簡単にいかないのも事実です。 文・写真 酒井 公洋
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暑いので・・・。